第16話 「少しだけなら戻せる」と、学費に手をつけた

大学4年生のころ。

借りられる金は、もうかなり増えていた。

それでも、

金は足りなくなった。

そして私は、

それまで絶対に手をつけていなかった金に手を出した。

大学の学費だった。


正確には、

学費80万円が現金で置いてあったわけではない。

私が借りていた奨学金が、

毎月数万円ずつ自分名義の口座に振り込まれていた。

それを使わずに残し、

大学へ支払う学費に充てる。

そういう金だった。

以前は母がその口座を管理していた。

大学在学中に母が亡くなってからは、

自分名義の口座なので、

自分で管理するようになった。

それでも、

しばらくは手をつけなかった。

当然だ。

自分の金ではある。

でも、

自由に使っていい金ではない。

大学に払うための金だった。


だから最初から、

「学費を使ってしまおう」

と思ったわけではない。

始まりは、

もっと小さかった。

少しだけなら大丈夫。

あとで戻せばいい。

支払期限まではまだ時間がある。

数万円くらいなら、

給料や何かで補える。

そんな感覚だったと思う。

最初に何へ使ったのかは、

もう覚えていない。

ただ、

一度口座から金を出してしまうと、

そこからは早かった。

また金が足りなくなる。

数万円使う。

今度こそ戻そうと思う。

でも戻す前に、

また必要になる。

そして、

また使う。


ここで厄介だったのが、

口座に最初から80万円入っていたわけではないことだった。

毎月、

奨学金が数万円ずつ入ってくる。

だから残高が減っても、

翌月になればまた少し増える。

もし80万円の札束が目の前にあって、

そこから10万円、20万円と抜いていたら、

もっと早く怖くなったのかもしれない。

でも実際は違った。

入ってくる。

少し使う。

また入ってくる。

また使う。

学費を使い込んでいるというより、自分の口座から少し借りているような感覚だった。

もちろん、

誰かが許可してくれたわけではない。

自分がそう思い込んでいただけだ。


そして何より、

誰にもバレないと思っていた。

口座を管理しているのは自分だけ。

残高を確認する人もいない。

使っても、

学費の支払日までに戻しておけばいい。

だから、

問題が表に出ることもなかった。

借金と同じだった。

今日なんとかなれば、先のことはあとで考える。

返済日までに金を作ればいい。

学費の期限までに戻せばいい。

そうやって、

未来の自分に任せ続けた。


ところが、

支払期限が近づいてきた。

あと1か月ほど。

そのころには、

さすがに分かっていた。

もう戻せない。

給料だけでは足りない。

借りられる金も余裕がない。

それでも、

すぐ誰かに相談することはできなかった。

学費として預かっていた金を、

自分で使った。

そんな話を、

簡単に言えるはずもなかった。

そしてさらに時間が過ぎた。

支払期限まで、

あと2週間ほど。

もう、

自分だけではどうにもならない。

そこでようやく、

私は祖父母に電話をかけることになる。

学費を使ってしまったことを、

打ち明けるために。

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