20歳になって、最初の平日。
私は一人で競馬場へ向かった。
行き先は浦和競馬場だった。
それまで競馬場に行ったことがなかったわけではない。
子どものころから競馬は好きだったし、家族に連れられて中央競馬場へ行くこともあった。
予想した馬券を、大人に頼んで買ってもらったこともある。
でも、
自分で馬券を買うのは初めてだった。
20歳になったのは、その2日前。
土日はいつものようにアルバイトがあり、休みになった月曜日に浦和へ行った。
長いこと、私はこの日を「20歳の誕生日に競馬場へ行った」と記憶していた。
それくらい、
20歳になったことと、この日の競馬場の記憶が強く結びついている。
初めての地方競馬場は、とにかく楽しかった。
中央競馬場とは雰囲気が違った。
まず驚いたのが、馬との距離だった。
近い。
これまで見てきた競馬とは、かなり感覚が違う。
目の前を馬が歩いている。
騎手も近い。
レースも、観客席からずっと遠くで行われているようには感じなかった。
地方競馬そのものが初めてだったこともあって、
何を見ても新鮮だった。
そしてもう一つ、
妙な高揚感もあった。
もちろん20歳になっているので、馬券を買うこと自体は何も悪くない。
それでも、
自分の金を持って窓口へ行き、自分の判断だけで馬券を買う。
その行為には、
少し悪いことをしているような感覚があった。
今まで大人に頼まなければできなかったことを、
もう誰にも頼まずにできる。
その自由さも含めて、楽しかったのだと思う。
その日いくら持って行ったのかは、もう覚えていない。
3万円くらいあったような気もする。
ただ、当時の私が3万円をきれいに貯めていたとも思えない。
実際には1万円くらいだったのかもしれない。
そこは記憶が曖昧だ。
ただ、
馬券を買える金を持って、一人で浦和まで行った。
それだけはよく覚えている。
そして、この日を境に、
私のギャンブルの比重は大きく変わっていく。
それまではパチンコやスロットが中心だった。
競馬が嫌いだったわけではない。
むしろ昔から好きだった。
ただ、自分では馬券を買えなかった。
20歳になって、その制限がなくなった。
ここから私は、
パチスロよりも地方競馬へ強く傾いていく。
初めて浦和へ行った日のことを、
細かいところまで覚えているわけではない。
でも、その日のあるレースについては、今でも妙にはっきり覚えている。
2014年7月14日。
浦和競馬の最終レース。
私は、圧倒的な1番人気だった馬を1着にして馬券を買っていた。
その馬が勝てばいい。
思い描いていた順番で決まれば、
5万円ほどになる馬券だった。
ゴール前。
1番人気の馬と、もう1頭が並ぶ。
そして、
私が1着にしていた馬は負けた。
馬券は外れた。
勝った馬の名前は、
オンワードリベルタ。
面白いことに、
あれから何年も経った今、
自分が1着にしていた圧倒的1番人気の馬の名前はまったく覚えていない。
でも、
私の5万円を消したオンワードリベルタの名前だけは、
今でもすぐに出てくる。
競馬を長くやっていると、
勝った馬より、
自分の馬券を外れにした馬のほうが記憶に残ることがある。
私にとっては、それがオンワードリベルタだった。
ただ、このころの私はまだ、
馬券が外れた悔しさすら楽しかった。
また明日も来たい。
次は当てたい。
20歳になって開いた扉は、
金を借りることだけではなかった。
自分の意思だけで、競馬に金を賭けられるようになった。
ここからしばらく、
私の生活の中心は地方競馬へ移っていく。
