第11話 20歳になって最初の平日、一人で競馬場へ行った

20歳になって、最初の平日。

私は一人で競馬場へ向かった。

行き先は浦和競馬場だった。

それまで競馬場に行ったことがなかったわけではない。

子どものころから競馬は好きだったし、家族に連れられて中央競馬場へ行くこともあった。

予想した馬券を、大人に頼んで買ってもらったこともある。

でも、

自分で馬券を買うのは初めてだった。

20歳になったのは、その2日前。

土日はいつものようにアルバイトがあり、休みになった月曜日に浦和へ行った。

長いこと、私はこの日を「20歳の誕生日に競馬場へ行った」と記憶していた。

それくらい、

20歳になったことと、この日の競馬場の記憶が強く結びついている。


初めての地方競馬場は、とにかく楽しかった。

中央競馬場とは雰囲気が違った。

まず驚いたのが、馬との距離だった。

近い。

これまで見てきた競馬とは、かなり感覚が違う。

目の前を馬が歩いている。

騎手も近い。

レースも、観客席からずっと遠くで行われているようには感じなかった。

地方競馬そのものが初めてだったこともあって、

何を見ても新鮮だった。

そしてもう一つ、

妙な高揚感もあった。

もちろん20歳になっているので、馬券を買うこと自体は何も悪くない。

それでも、

自分の金を持って窓口へ行き、自分の判断だけで馬券を買う。

その行為には、

少し悪いことをしているような感覚があった。

今まで大人に頼まなければできなかったことを、

もう誰にも頼まずにできる。

その自由さも含めて、楽しかったのだと思う。


その日いくら持って行ったのかは、もう覚えていない。

3万円くらいあったような気もする。

ただ、当時の私が3万円をきれいに貯めていたとも思えない。

実際には1万円くらいだったのかもしれない。

そこは記憶が曖昧だ。

ただ、

馬券を買える金を持って、一人で浦和まで行った。

それだけはよく覚えている。

そして、この日を境に、

私のギャンブルの比重は大きく変わっていく。

それまではパチンコやスロットが中心だった。

競馬が嫌いだったわけではない。

むしろ昔から好きだった。

ただ、自分では馬券を買えなかった。

20歳になって、その制限がなくなった。

ここから私は、

パチスロよりも地方競馬へ強く傾いていく。


初めて浦和へ行った日のことを、

細かいところまで覚えているわけではない。

でも、その日のあるレースについては、今でも妙にはっきり覚えている。

2014年7月14日。

浦和競馬の最終レース。

私は、圧倒的な1番人気だった馬を1着にして馬券を買っていた。

その馬が勝てばいい。

思い描いていた順番で決まれば、

5万円ほどになる馬券だった。

ゴール前。

1番人気の馬と、もう1頭が並ぶ。

そして、

私が1着にしていた馬は負けた。

馬券は外れた。

勝った馬の名前は、

オンワードリベルタ。

面白いことに、

あれから何年も経った今、

自分が1着にしていた圧倒的1番人気の馬の名前はまったく覚えていない。

でも、

私の5万円を消したオンワードリベルタの名前だけは、

今でもすぐに出てくる。

競馬を長くやっていると、

勝った馬より、

自分の馬券を外れにした馬のほうが記憶に残ることがある。

私にとっては、それがオンワードリベルタだった。

ただ、このころの私はまだ、

馬券が外れた悔しさすら楽しかった。

また明日も来たい。

次は当てたい。

20歳になって開いた扉は、

金を借りることだけではなかった。

自分の意思だけで、競馬に金を賭けられるようになった。

ここからしばらく、

私の生活の中心は地方競馬へ移っていく。

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