金がなかった。
次の給料日までは、まだ日がある。
友人から借りることもできなくはなかったと思う。
でも、その時の私は別の方法を探していた。
ファストフード店の席に座って、スマホで検索した。
何と検索したのか、正確な言葉までは覚えていない。
ただ探していたのは、
「どうすれば今、お金を作れるのか」
ということだった。
節約する方法ではない。
スロットをやめる方法でもない。
今ある金で給料日まで生活する方法でもなかった。
とにかく、
「どこかから金を持ってこられないか」
それを探していた。
そこで見つけたのが、学生向けのローンだった。
それまでの私にとって、金融会社から金を借りるというのは身近なものではなかった。
友人から数千円を借りることはあった。
でも、会社から金を借りる。
自分の名前で契約して、利息をつけて返す。
それは明らかに別のものだった。
だから、申し込むまではかなり迷った。
怖さもあった。
本当に借りて大丈夫なのか。
家に何か届かないのか。
知られることはないのか。
そんなことを調べた記憶がある。
それでも、
「借りない」
という結論にはならなかった。
金が必要だった。
正確には、
金が必要だと思い込んでいた。
今なら、スロットに行かなければいいだけだったと思う。
でも当時の自分にとって、
スロットへ行かないことより、
金を用意することのほうが現実的な解決策に見えていた。
私はその学生向けローンに申し込むことにした。
店舗は、雑居ビルの中にあった。
明るく入りやすい雰囲気だった、という記憶はない。
初めて行った時はかなり緊張した。
建物に入る。
階段かエレベーターで上へ行く。
扉の前まで来る。
このまま帰ろうか。
そんなことも考えたと思う。
それでも中に入った。
審査に通るのかも不安だった。
当時はアルバイトをしていて、毎月ある程度の収入はあった。
それでも学生だ。
本当に金を貸してもらえるのか。
かなり身構えていた。
ところが、手続きは自分が想像していたよりもあっさり進んだ。
最初に借りられたのは、数万円だったと思う。
正確な金額はもう覚えていない。
自分の中ではもっと大きな金額を想像していたので、
「これだけか」
と思った記憶がある。
今考えると、その感覚もかなりおかしい。
初めて金融会社から借金をする人間が、
借りられる金額が少ないことに安心するのではなく、
少ないことを残念に思っていた。
契約が終わると、カードを渡された。
そのカードを使って、店内にある機械から金を引き出した。
現金が出てきた。
それだけだった。
もっと何か大きなことをしてしまったような感覚になると思っていた。
でも実際は違った。
機械を操作して、
カードを入れて、
現金を受け取る。
あまりにも普通だった。
借金をした、という実感が薄かった。
むしろ、
「これで金ができた」
という安心感のほうが大きかったと思う。
当然、その金の一部はスロットにも使った。
全部をギャンブルに使ったわけではなかったと思う。
金がないことを家で不自然に思われないようにするためにも使った。
食事をしたり、普通に遊んだり。
そういう金にもなった。
つまり、その借金のおかげで、
私は「金がない人」に見えずに済んだ。
そして返済についても、深刻には考えていなかった。
毎週、あるいは決められたタイミングで数千円ずつ返せばいい。
アルバイトをしている。
給料も入る。
それくらいなら返せる。
そんな感覚だった。
不思議なことに、
「早く全部返そう」
とはあまり思っていなかった。
借金があることを家に知られたくなかったので、
大きな金額を一気に返すつもりもなかった。
数千円ずつ返して、
問題なく維持できていればそれでいい。
借金をなくすのではなく、
借金がある状態を維持する。
いつの間にか、そんな考え方になっていた。
そして何度か返済すると、
借りられる金額が増えた。
最初に借りた数万円を返し続けていると、
「もう少し借りられる」
という状態になる。
私はそれを、
借金が増える余地だとは考えなかった。
使える金が増えた。
そんなふうに見ていた。
返した分だけ、また借りる。
借りられる枠が増えれば、その分も使う。
そうやって、
最初は数万円だった借金は、あっという間に膨らんでいった。
まだこの時の私は、
借金が何百万円にもなる未来なんて想像していない。
ただ一つだけ覚えている。
初めて金融会社から金を借りるまでには、
かなり迷った。
かなり怖かった。
でも、
一度借りてしまうと、その怖さは驚くほど早く消えた。
そして次からは、
「借りるかどうか」ではなく、
「あといくら借りられるか」
を見るようになっていった。
